【 落日のサバールで 】


国旗

モーリタニア ・イスラム共和国




アフリカ屈指の貧乏国、モーリタニアには鉄鉱石と漁業しかない。

国土のほとんどは砂漠で資源がほとんどない。

 最西端の港町(ヌアディブ)の夕日は美しい。

男の楽しみといえば、「ペタンク」くらいのものだ。女の楽しみといえば、やはり「踊り」だった。

「♪ドンドコ♪コンカンカン♪クンカンチンタン」と独特の太鼓音が響いてきた。

木曜日の夕暮れはイスラム国では「花の金曜日?」にあたる。

ホテルの近くで 『サバールダンス祭り』 が開かれた。

近くの会場に出かけた。街の空き地に、100人余りの老若男女が集まっていた。

皆、うきうき楽しそうな雰囲気だった。



  汚れたテントで囲った会場に入場券(新聞紙の小片)を

買って中に入った。

外国人?は私だけだった。

バンドはセネガルから来たアマチュア楽団(ボンゴ2人、
トーキングドラム1、他1人)だった。

トークキングドラムの男が何か話している。

「さあ!皆さん踊って踊って〜」と叫んでいるようだった。  

観集の中の女性には、

この日の踊りの衣装を着てきた人がいた。


サバールダンス大会の始まり(左端は忘れ得ぬ女性)


民族衣装を着て踊りを披露。子供も踊る。

 サバールダンス大会が始まった。

最初の女性が出てきた。

ドラムのリズムに乗って、激しく踊る自己表現である。

次から次へと一人ずつ出てきては踊る。

ほとんどが若い女性だった。  

肌を出して踊る女性はほとんどいない。

全身をガウンですっぽり覆っている。

頭のターバン巻きが凝っている。

普通の姿で踊る人も結構いる。  

 
踊りの特徴は足を跳ね上げ、股を動かすことだ。

祭りが盛り上がってきた。

男性も出て女性との「デュエット」である。

激しく男女が踊り合う姿は動物的で面白い。

少年や少女も踊り始めた。

大人たちの真似をするのだ。


スカートを捲り上げ、足を跳ね上げて踊る少女。


「股ブルダンス!?」を真似して踊る私。

観衆がシノワシノワ!(中国人の意味)と私を指さす。

さっそく「股を開閉するダンス?」を真似して踊ってみせた。

おかしくてしょうがなかった。

一人の女性が出てきて一緒に踊ってくれた。

心は有頂天になってきた。

喜びのあまり、特技の側転、前転と大股開きを

披露してしまった。

 


乗りに乗って踊りまくる。拍手喝采!

 観衆から大きな拍手があがった。

観衆席に戻ると、しばらくして胸のポケットに紙幣を

刺し差し込んで女性がいた。

嬉しくて涙があふれそうだった。生涯忘れ得ぬ女性となった。

翌日から街の中を歩くたびに、

子供たちから「ダンス、ダンス!」といってからかわれた。

仕事は毎日苦労の連続であったが、

落日のサバールでダンス大会は

深く心に残る楽しい思い出となった。



1997年 夏


前転して開脚フィニッシュ。決まった顔。拍手喝采。
(注:棒をくわえているのは、
モーリタニアの歯ブラシです)

モーリタニア国、ヌアディブ市(最西端の港町)にて、1997年8月

 <西アフリカ、エッセイスト>
【シルバー熊】